うたかた

カナダの森を研究中の大学院生の日々。 湧き上がっては心を揺らす感情の泡を、戯れに文字にしてみる。

腕時計

腕時計を東京の実家に忘れてきた。
机の上にあるのを、
ああ、忘れそうだな
と眺めながら昼食を食べ、
それから1時間もしないうちに、
そのまま置いて出て来てしまった。

送ってもらう
という選択肢もあった。
でも紛失する可能性もあれば、
壊れる可能性もある。
実は大事な腕時計である。
俗に言う、
祖母の形見
というやつ。

この後の行事と言えば、
修論発表
という大仕事がある。
できれば祖母の腕時計をはめたかった。
守られている気分
というのに、浸りたかった。
あーあ。
仕方ない。

ちょっとがっかりしたわけだけれども、
成田空港で安い腕時計を購入し、それが
文字盤が見やすい
という謳い文句の時計なものだから、
かえって良かったかもしれない
と思い始めた。
時間を計る
という本来の用途を考えれば、
見やすいこと
に勝る長所はあるまい。

これも祖母の仕掛けたこと、
などとキレイな作り話をでっち上げたいところだが、
祖母はどう考えてもそんな
小粋な感じの人
ではなかった。
つまりこれは完全なる偶然であるわけだけれども、
運さえも味方につけて、
なんとかかんとか、乗り切りたい。



20060823 (1)-1re2
 そこをなんとか。

カレンダー

私にとってカレンダーは、
無くてもいいし、
あってもほとんど見ないし、
でも時々あると助かる、
くらいの存在である。

去年はたまたま知人から譲り受け、
卓上カレンダー
をテレビの上に置いていた。
年が明けてカレンダーが無くなって、
無ければ無いで不便、たまに、
ということに気づいた。

仕方ないので去年の卓上カレンダーを持ち出し、
月ごとに1枚ずつ調べ、
2012年1月は2011年5月と、
2012年2月は2011年6月と、
2012年3月は2011年12月と、
ほぼ同じであることを突き止め、

120124 (1)

しれっと2011年5月を使っている。

祝日などはもともと関係なかったから問題ない。
来月は30日が無いことを気をつければいいだけだ。
ただひとつ難点は、
5月の5が意外に目立つ
ことで、そのせいで
現実味が少し薄れる
ということである。



20060823 (1)-1re2
 今は1月今は1月…。

水漏れ(後編)

朝から続いた漏水は、2時頃には
収束の様相
を呈していた。(12/01/20参照)
最初に漏れ出したバスルームはきれいになり、
寝室の照明も水が滴り落ちることはなくなった。

ただ漏水が起きた
天井の照明
というのが、
半球状のカバー
に覆われており、

120120 (2)
(漏水時の様子)

中にまだ水がたっぷり入っている
ことが予想された。
それをなんとかして取り除かねば、
いつ水が落ちてくるかわからない下で寝る
というのはどうにも都合が悪い。

机を移動させ、
その上に椅子を乗せる。
少し触ってみるがカバーは外れない。
水が2、3滴垂れてきた。
内部の水の存在はこれで確実となった。

どうしようか。
寝室で片付けに頭を巡らせていた午後2時半。
ボタボタボタッ
と大きな音がした。
油断していた。
今度は居間の天井から、
何もない天井のど真ん中から、
水が机に滴り落ちている。
パソコンが濡れなかったのが不幸中の幸いだ。

見ると他にも天井に染みができている。
ソファやクッションが濡れると面倒だ。
慌てて避けられるものは避け、
あとはとにかくビニールをかぶせ、
あとは成り行きを見守るしかない。

実は以前、内装工事があって、(10/02/03参照)
家具をすべてビニールで覆う
ことを余儀なくされた。
そのときのビニールを、
内側にあってきれいだった1枚だけ、
取っておいてあった。
何かのときに役に立つかもしれない
などと言ってはいたが、
まさかこんな形で役に立つ日が来るとは、
である。

120120 (7)


最初は滴り落ちていた水が、
今さら勢いを増して線になって流れ落ちている。
収束どころか、
と私は思わずひとりごちる。
まるでこれからが本番みたいだ。
3時過ぎにはもう容器はいっぱいになった。

こうなるといよいよ、
いつ落ちてくるかわからない照明と、
水が落ち続けている天井とに挟まれて、
寝る場所がない
という問題が現実味を帯びてくる。
今日は金曜日。
週末になれば事務所は閉まってしまう。
とにかく照明の処理を頼みに行った。

わかった、
と言ってくれたおじさんはしかし、なかなか現れない。
英語が通じていなかったのだろうか。
緊急性がないと思われたのかもしれない。
来週明けに回されてしまったのだろう、きっと。

そこに天の助け。
友人から折り返しの電話があり、
手伝ってくれる、
とのこと。
しかも同じ照明のカバーを
外したことがある
と彼女は言った。
持つべきものは頼れる友人である。

駆けつけてくれた友人の指示のもと、カバーを外す。
下では彼女が念のため金盥を持って構えている。
そう、念のため、だった。
しかし水を湛えた照明カバーはかなりの重さがあり、
わっ外れた!
バシャーッ!
きゃーっ!
というわけで私は水をぶちまけ、
友人を濡れ鼠にした。
誠に申し訳ない。

タオルで拭いたり、
外したカバーを洗ったり、
片付けたり、
濡れた靴下を乾かしたり、
そうこうしていると修理のおじさんが来た。
時刻は6時半。
もう遅い。
事情をまったく知らないらしいその人は、
外されたカバーを取り付けてくれ、
仕事の愚痴を言って帰って行った。
天井から最後の1滴が落ちたのは午後11時。
実に12時間と30分が経過していた。


それから1日が過ぎて、
照明カバーの水をこぼした辺りはまだ乾かない。
もともと換気しづらい奥のスペースである。
キノコが生えたらどうしよう、
と母にメールをしたら、
生えたら生えたで、楽しいブログネタの誕生、でしょ?
ちょっとた・の・し・み!
という調子に乗った返事がかえってきた。
冗談じゃない。
物事には限度というものがある。

結局12時間半のあいだに、
1.8Lほどの容器に
バスルームと寝室で4杯、
居間で6杯、
それから照明カバーが1.5杯分ほど、
少なく見積もっても計20L、
天井から水が滴り落ちたことになる。

気をつけなくてはならないのが、
今回の水害のもとは3階、
我が家は1階、
ということである。
2階はシェアユニットの個室であり、
ということは狭くて逃げ場が無かったはずだ。
うちはこれでも被害は小さかったに違いない、
と、天井にできたシミを見ながら

120121 (6)

その上の住人を思いやっている。



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 写真を撮る余裕はあった。

水漏れ(前編)

よだれが垂れそうになって、ハッと目が覚めた。
目覚ましが鳴って、
起きようとしてうつぶせになり、
そのまままた寝てしまっていた。
どこかで煙探知機の警報が鳴っている。
なんだか水の音が聞こえる。
夢…?

しかし夢にしては水の音が妙に生々しい。
流れる水の音とともに、
ピチャッピチャッ
という音が随分と近くではっきり聞こえる。
心霊現象?
寝坊してもう10時半なのに?
こんなところで?

周りを見回しても何も見えない。
電気のスイッチを入れると何事もなく点いた。
とりあえず顔を洗おうとバスルームに入ると、
なるほど、これか。
天井の換気扇から、水が滴り落ちてきていた。

アラームはまだ聞こえている。
ということは、上の階で
煙を出しすぎてスプリンクラーが作動した
のかもしれない。
警報が鳴っているのだから、
誰かがすぐ何とかするのではないか
というわけで、様子を見ることにした。
とりあえず水を受ける容器を置いておく。

11時。
まだ止まらない。
30分も経ったから、そろそろ言いに行こうか。
そう思っていると、
11時15分、
ボタボタッという音とともに居間の奥の照明から漏水。
しかもバスルームを上回る勢い。

天井から漏れるとしたら壁際だろう
という勝手な思い込みがあった。
まさか真ん中の照明から漏れるとは。
居住空間の奥は本棚で仕切って寝室になっている。
幸い寝具は畳んであったけれど、
跳ねた水が盛大に飛び散り、
布団の端がしっとりと濡れ、
敷きものは一部ではあるがびしょびしょ。

さすがの事態に事務所まで走った。
滴る水を空のヨーグルト容器で受けて。
念のため、卓上のパソコンにはビニール袋をかけて。

11時20分。
天井から水が、
と私は訴えた。
最初はバスルーム、今はリビングも。
1時間近く前から、
と伝えながら、
もっと早く来ればよかったな
と後悔する。

どうやらお隣からも苦情が来たらしい。
アラームも聞こえている
と言うと、
漏水でお隣の煙探知機が作動した
と教えてくれた。
仕組みはよくわからない。
すぐ修理に来てくれるはずだから、
と言われて家に戻る。

小一時間しても誰も来なかったらまた来て
などと事務所では言われたが、おじさんがすぐに来た。
リビングの水の状態をチラリと見ると、
3階を見てくるから
と去って行った。
見れば外の壁を水がダバダバと流れている。
雨が降っているからなんとも言えないが、
普段はこんな風にはなっていなかったと思う。

1L以上あるヨーグルト容器はもういっぱいになっている。
バスルームも、
リビングも、
半径数十cmではあるが水浸しだ。
水を空にして置き直す。
バスルームのドアのあたりも少し漏れている。

しばらくするとおじさんが戻ってきた。
水の元は3階の台所にあるシンクで、
栓がされた上に水が出っ放しになっていたらしい。
すぐ止まると思うよ
とおじさんは言った。
容器をあと何時間かそのままにしておいて。

ありがとう
と笑顔でおじさんに礼を言って別れ、
A few hours! 何時間も!
と私は唸った。
水の勢いは衰えない。
リビングの容器はあっという間にまた満杯になった。

少しするとバスルームの漏水が止んだ。
まずはこちらを掃除することにする。
溜まった水を捨て、
雑巾を絞り、
水浸しになった便器を拭き、
床を拭き、
ドアのあたりの漏水あとも処理する。

結局居間の水が止まったのは12時45分頃だった。
2時間以上。
やれやれ。
洗濯できるものはするとして、
絨毯にしみ込んだ分はどうしよう。
あと照明のカバー。

照明のカバーは半球状になっている。
そこから溢れ出て来ていたのだから、
中いっぱいに水が詰まっている
と考えてほぼ間違いない。
どうしようか。

頭の中が完全に、
事態の収束
に向かって動き始めた時、予想外の音が聞こえた。
水漏れ事件はこのままでは終わらないのである。



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 後半へ続く。

年賀状

ここのところずっと、年賀状を作らずにいる。
海外にいる、とか、
それどころではない、とか、
筋が通っているんだかいないんだか、
言い訳して逃げている。

それでも律儀な友人たちは賀状を送ってくれる。
お返事はカナダから
などと最初は言っていたのだが、
やっぱり
と急に気が変わって、年賀葉書を買ってきた。

しかしいざ書く段になって、困ってしまった。
辰の絵というのは少々難しい。
お正月っぽいものも、
カナダっぽいものも、
思いつかない。
まさかヤスデの絵を描くわけにもいかない。

添える文言も悩みの種だ。
あけましておめでとうございます
には随分と出遅れてしまっている。
今年もよろしく
もいまいちピンと来ない。
短いのは妙に陳腐なのしか出てこないし、
かと言って長々と書くのも野暮であろう。

真っ白な葉書の前でしばらく唸った後、
いっそ言葉は書かないことにしよう
と決めた。
この想いは言葉では語り尽くせない
などと胡散臭いことをつぶやく。
胡散臭いついでに、
いっそ絵も関係ないものでいいや
ということにする。

年に一度取ってつけたように
通り一遍の日ごろの感謝
などを述べるよりは、
徹底的にわけのわからないもの
を送りつけて
初笑いならぬ初苦笑い
を引き出す方が、性に合っている。
いささかひん曲がっているが仕方がない。

冷蔵庫をひっかきまわして、
みかん
しそ
りんご
里芋
を見つけ出し、
下描き無しで適当…否、心を込めて絵を描き、

120104 (7)

完成。

7日に会った友人には、
さっちゃんの「さ」は里芋の「さ」
などと関連性らしきものを捏造したりしたが、
葉っぱ一枚描かれた葉書
を郵便受けに見つけた友人などには同情する。
きっと彼女は、
この葉っぱが実はしそである
という事実にも辿りつけなかったに違いない。

ともあれ私は、
悪ふざけに付き合ってくれる大事な友人たち
の存在にとても感謝している。
この感謝の念を素直に表せないのが残念であり、
その残念さを思うにつけ、
友人たちの懐の深さ
に頭を垂れるばかりである。



20060823 (1)-1re2
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